自転車競技の話 その2 安田知司選手編1
今回はたった2年間で草レーサーから初代Jシリーズ(日本で最もグレードの高いマウンテンバイク(以下MTB)レースでオリンピック・世界選手権の選考も行われる。)チャンピオンまで上り詰めた不世出のライダー、安田知司選手の速さの秘密に迫ります。
安田選手本人からのコメント(★注釈で下部に青字で表示)も貰えましたので、併せて掲載します。一部僕の書いていることと安田選手のコメントに方向性の違いがある部分もありますが、敢えてそのままとします。
安田選手がチャンピオンになったのは1994年で1996年に引退しました。ですから現役クロスカントリー(以下XC)・ダウンヒル(以下DH)のライダーでも、既に知らない方が多いと思います。
しかし、彼のレースへのアプローチの仕方は、現役ライダーも学ぶべきところが多いと思うのです。
まず、安田選手のライダーとしての能力を検証してみます。特別にヒルクライム能力が高いわけでも高い巡航スピード能力があったわけでもありません。ロード練習では実業団登録の中堅レーサーに後れを取る事も多く、自転車競技者としては決して速いレーサーではありませんでした。
けれど、それを補って余りあるものを彼はたくさん持っていたのです。
彼のバイクコントロールテクニックは他のライダーと明らかに次元の違うものでした。元々モーターサイクルのエンデューロ&モトクロスライダー(全国のエンデューロ・トップカテゴリーで多くの優勝をさらい、全日本モトクロスにも出場していた程の実力。★注1参照)であった彼は、それを速さに結びつけることに成功したのです。
これは単純にコーナーワークがうまいと言うだけではありません。常に彼独自の一番ラクが出来るラインを走っていたのです(★注2参照)。
例えばスピードののる下りからすぐ登りになるセクションで、登りに変わるアプローチがガレている、或いは難しいコーナーがあり、せっかく下りでのせたスピードを殺さなければならないようなシチュエイションでも、彼だけはスピードをほとんど殺さず登りに繋げられたのです(★注3参照)。
周回が進み、他のライダーが通って路面が荒れてきたラインを避け、最も消耗の少ないラインを走りました。そのラインは普通のライディングテクニックでは走ることが出来ないラインも多かったのです。
ポジショニングに関してはマウンテンバイクの場合、効率の良いペダリングと共にコントローラブルであることが理想ですが、この二つは相反する点も多いのです。
ほとんどのライダーがよりペダリング効率を重視していますが、彼は全てのシチュエイションをトータルに分析し、独自のポジションを作りだしました(★注4参照)。
出来上がったフォームはお世辞にも奇麗なものではありませんでしたし、僕も含めてロードやピストの経験値が高いライダーは「フォームを変えたほうが速く走れるのに。」と思いました。後に安田選手も「それはよう言われましたわ。」と言っています。
ところが、彼に関してはその特異なフォームがベストフォームだったのです。
彼が乗り込んで乗り込んでトライ&エラーを繰り返して、とことん突き詰めたポジションとフォームは、最も彼にマッチしていたのです(★注5参照)。
下記、安田選手談
★注1
エンデューロは遠くのレースでも勝ったし、モトクロスには全日本にも出かけた。しかし跳びぬけたスピードは持っていなかったと思います。レース全般について言えることはオールラウンダーであったことと、どんくさいほうであったけれども、好きであるが上の経験と工夫が優れていたと思う。あと、勝つことに情熱を掛けること、つまり何に対しても一心に掛ける情熱が大事と思います。結果は正直だと他の人を見ても思います。
★注2
コーナーリングの限界を感じる感覚はかなりほかの人より勝っていると感じていました。理由は、子供のころ,飽きもせずに繰り返し自転車でコーナーを毎日攻め続けて磨かれたものとしか考えられない。基本的にはドンクサイ方であります。
★注3
コーナーの立ち上がりスピードの乗りの違いでは面白いほどアドバンテージがあり楽させてもらいました。これは世界レベルでも同じように体感できました。
★注4
ポジショニングに関してはすべてのシチュエイションをトータルで考えていました。
バイクコントロールがうっとうしくなるギリギリの線まではゆるい上りを中心にし、レース中の速さと気合、モチュベイションを両立させると言うか・・・。この微妙なバランスの拾い出し作業は2台のバイク(彼は同じ仕様のバイクを常に2台使っていた。詳しくは次回で。)なくしては不可能だったと確信しています。
そこがMTBの面白いところではないでしょうか。極端に言うとコースが変われば適応できる範囲内でポジションもバイクも代えるべきと思います。ロードとMTBのバイクが違うように。
★注5
そうなんです。慣れているということがどんなに大事なことか。